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In the Making
研究から、これからを考える。
RESEARCH & POSSIBILITIES04 / RESEARCH & POSSIBILITIES

仮説は、まだ発見ではない。

AI同士が批評し、磨き、順位をつける。その会議の外側で、自然は何と答えるだろう。

芽のスケッチを重ねた製図台と、まだ何も生えていない鉢。

よい説明を聞くと、何かがわかった気がする。筋道が通っていて、先行研究も挙がり、次の実験まで書いてあるなら、なおさらだ。

ただし、自然にはプレゼンテーションを褒める習慣がない。どれほど美しい仮説でも、細胞はその通りに振る舞ってくれるとは限らない。

Googleなどの研究者が開発したCo-Scientistは、この説明と実験のあいだに置かれたAIだ。論文を要約するだけではなく、新しい仮説と検証の進め方を提案する。Juraj Gottweisらの研究を読むと、AIが科学者になるかという大きな問いより先に、仮説を育てる仕事の分業が目に入る。

ひとつの答えを、すぐには出さない

Co-Scientistでは、Gemini 2.0を基盤とする複数のエージェントが役割を分担する。案を生むもの、批評するもの、比較して順位をつけるもの、改良するもの。似た案を見つけたり、全体を見渡してレビューしたりする役もある。研究者の目標を受けた監督役が、仕事を配る。[1]

特徴は、もっともらしい回答を一度出して終わらないことだ。仮説同士を比べ、弱点を探し、その結果を次の生成へ戻す。研究者も目標や制約を伝え、方向を変えられる。科学者を席から退かせるというより、考えを試す相手を増やす設計になっている。

この構造には魅力がある。思いつきに、すぐ反論が返る。自分では読みきれない隣接領域へ、探索が伸びる。案を捨てる前に、別の形へ組み替えられる。ひとつの頭の中では順番待ちになりやすい仕事を、分けて走らせるわけだ。

けれど、批評者が増えたことと、現実に近づいたことは同じではない。全員が同じ前提を見落としていたら、活発な議論はその前提の周りを上手に回る。会議の議事録は厚くなる。世界のほうは、一行も書き換わっていない。

紙の外へ出た候補

研究チームは、システム内の順位だけで終わらせず、生物医学の課題で実験を行った。急性骨髄性白血病に対して、既存の薬剤・化合物を別の用途で試す実験では、AIが提案し、専門家が検討して選んだ薬剤を細胞で試した。その一つKIRA6は、KG-1aという細胞株で生存率を抑えた。一方、別の細胞株では感受性が大きく違った。[1]

この違いは、成果につく小さな但し書きではない。むしろ、実験をした意味そのものだ。同じ病名のもとでも、効き方は一様ではない。仮説が世界に触れた瞬間、説明の滑らかさとは別の凹凸が現れる。

薬の候補が得られ、細胞で作用が確かめられたことは前進である。ただ、患者に効く薬ができたわけではない。体内での振る舞い、安全性、病気の多様さなど、細胞実験だけでは答えられない問題が残る。論文自身も、臨床への移行の難しさを明記している。

「AIが発見した」と一行に縮めると、この長い距離は消えやすい。仮説を提案した。専門家が選んだ。実験で確かめた。条件による違いが見えた。これらを別々の動詞で残したほうが、成果は小さくなるどころか、どこが新しかったのか鮮明になる。

批評の量より、反証への出口

研究には、人間による評価も含まれる。ただし、その一部は11の研究目標を用いた小規模な比較だ。内部のトーナメント順位も、独立した真偽判定ではない。公開文献の偏り、誤った引用や推論、アクセスできない知識、他分野へ広げた場合の性能といった課題がある。すべてのコードが公開されているわけでもない。[1]

そこで、ここからは編集上の問いになる。AIが仮説を大量につくれるようになったとき、希少になるものは何だろう。発想の数ではなく、一つを現実にぶつける機会かもしれない。

実験には時間がかかる。設備や試料が要る。結果が思わしくなくても、次に役立つ形で残さなければならない。仮説が安く速く生まれるほど、どれを試すか、何が起きれば棄却するか、どの結果なら次へ進むかという設計が、相対的に重くなる。

企業の新規企画にも、似た場面はある。顧客が望むはずだという説明をAI同士で磨くことはできる。しかし顧客の反応そのものは、その議論の中にはいない。説明の質を上げる作業と、説明が外れる場を設ける作業。この二つをつながないまま前者だけが速くなると、確信の製造だけが効率化されかねない。

逆に、試した結果を次の仮説へ戻せるなら、生成の速さは違った意味を持つ。外れた案が単なる失敗ではなく、探索する範囲を変える材料になる。ただし、これはこの研究から実務への示唆を考えたもので、企業経営での効果を実証した結論ではない。

Co-Scientistの面白さは、AIがひとりで正解を宣言する姿よりも、仮説が批評され、選別され、外へ出ていく経路にある。最後の審査員は、もう一体の雄弁なAIとは限らない。

その仮説が間違っているとしたら、何に会えば、私たちはそれを知れるだろう。

PAPER & RESEARCHERS

今回の研究

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論文
Accelerating scientific discovery with Co-Scientist
著者
全一覧を開くJuraj Gottweis / Wei-Hung Weng / Alexander Daryin / Tao Tu / Petar Sirkovic / Artiom Myaskovsky / Grzegorz Glowaty / Felix Weissenberger / Alessio Orlandi / Dan Popovici / Anil Palepu / Keran Rong / Ryutaro Tanno / Khaled Saab / Fan Zhang / Jacob Blum / Andrew Carroll / Kavita Kulkarni / Nenad Tomašev / Dina Zverinski / Ivor Rendulic / Elahe Vedadi / Florian Hasler / Luka Rimanic / Marina Boia / Ivan Budiselic / Ben Feinstein / Mathias Bellaiche / Tom Sheffer / Jan Freyberg / Jeremy Ratcliff / Ottavia Bertolli / Katherine Chou / Avinatan Hassidim / Burak Gokturk / Amin Vahdat / Yuan Guan / Vikram Dhillon / Eeshit Dhaval Vaishnav / Byron Lee / Tiago R. D. Costa / José R. Penadés / Gary Peltz / Yossi Matias / James Manyika / Demis Hassabis / Yunhan Xu / Pushmeet Kohli / Annalisa Pawlosky / Alan Karthikesalingam / Vivek Natarajan
論文上の所属
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Juraj Gottweis, Alexander Daryin, Petar Sirkovic, Artiom Myaskovsky, Grzegorz Glowaty, Felix Weissenberger, Alessio Orlandi, Dina Zverinski, Ivor Rendulic, Florian Hasler, Luka Rimanic, Marina Boia, Ivan Budiselic, Burak Gokturk, Amin Vahdat — Google Cloud AI Research, Zurich, Switzerland

Wei-Hung Weng, Tao Tu, Keran Rong, Ryutaro Tanno, Khaled Saab, Nenad Tomašev, Elahe Vedadi, Jan Freyberg, Jeremy Ratcliff, Ottavia Bertolli, Demis Hassabis, Yunhan Xu, Pushmeet Kohli, Alan Karthikesalingam, Vivek Natarajan — Google DeepMind, Mountain View, CA, USA

Dan Popovici, Anil Palepu, Fan Zhang, Andrew Carroll, Kavita Kulkarni, Ben Feinstein, Mathias Bellaiche, Tom Sheffer, Katherine Chou, Avinatan Hassidim, Yossi Matias, James Manyika, Annalisa Pawlosky — Google Research, Mountain View, CA, USA

Jacob Blum, Yuan Guan, Gary Peltz — Stanford University School of Medicine, Palo Alto, CA, USA

Vikram Dhillon — Houston Methodist Hospital, Houston, TX, USA

Eeshit Dhaval Vaishnav, Byron Lee — Sequome, San Francisco, CA, USA

Tiago R. D. Costa, José R. Penadés — Fleming Initiative and Imperial College London, London, UK

刊行・改訂
受稿 2025-03-20
受理 2026-05-11
公開 2026-05-19
正式版 2026-07-01
巻号刊行日 2026-07-09
arXiv 初版 2025-02-26
arXiv 第2版 2026-06-29
掲載誌 Nature 655, 487–496 (2026)
DOI 10.1038/s41586-026-10644-y
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