PROTHENTIA
PEOPLE × AI / JOURNAL
In the Field
変化が起きる、その現場から。
現場から01

その一手前で、
手が止まる

長く使われた仕組みと、AIをつなぐ仕事

CASE 03 · 情報システム部門PEOPLE × AI IMPLEMENTATION
担当者の操作を見ながら、仕事の手順を書き留めるエンジニア

画面の外にある手順

担当者の指が、マウスの上で止まった。

画面には、次へ進むためのボタンがある。彼は押さない。隣に置いた紙へ目を落とし、それから別の画面を開いた。エンジニアは、その順序をノートに書いた。

「いま、何を確かめましたか」

「これで進めていいかどうかです」

答えを聞いても、まだ分からなかった。何を見れば、進めていいと決まるのか。画面に出ている情報だけで足りるのか。彼はノートの先へ進まず、同じところをもう一度見せてもらった。

情報システム部門が長く使ってきた仕組みに、AIを組み込む。説明すれば、その一行で済む仕事だった。机に着いてみると、一行には入らないことがいくつもあった。

担当者は慣れた手つきで操作する。必要な情報のありかを知っている。画面を行き来する理由も、いつもは口にしない。その人にとっては、ひと続きの仕事なのだ。

エンジニアは競技の世界から来た。身体を動かしていた頃も、人に言われた通りにできたつもりで、できていないことがあった。説明を聞くことと、同じ動きを自分で再現することには、距離がある。その距離を、この机でも測っていた。

一連の操作を、今度は自分でたどる。途中で迷った。ノートの矢印が一本、抜けていた。

残すものを調べる

机の端へ紙をずらすと、前の紙に筆圧の跡が残っていた。彼はそこへ新しい図を描いた。

利用者がしたいこと。今の仕組みでできること。その間に、AIアシスタントを置く。

描くのは簡単だった。線を一本引けば、つながって見える。

彼は画面を開き直した。既存の機能を、一つずつ確かめる。すでに取り出せる情報はどれか。どんな手順を経て、その状態になっているか。似た操作でも、意味が違うところはないか。

長く使われた仕組みには、仕事の都合が積もっている。画面の見た目だけでは分からない。理由を尋ねると、担当者は少し考え、別の操作を見せてくれた。彼は書きかけた線を消した。

「そこは、今の機能を使えそうです」

担当者が椅子を少し寄せた。

「同じものを、またつくるんですか」

「まず、今あるものを確かめます」

アシスタントの入口をつくるには、その奥にある仕事を知る必要がある。新しい画面を描く時間より、既存の機能を見ている時間が長くなった。ノートの余白が狭くなる。彼は次のページを開いた。

判断の境界を考える手と、線を引き直した紙

任せるところで線を引く

動く試作ができた。

入力すると、応答が返る。自分の机では、いったん最後まで進んだ。彼はその流れを、担当者の前で動かした。

担当者は画面を見ていた。最初に見せてもらったときと、同じところで手が止まった。

「ここは、自分で見たいです」

彼はキーボードから手を離した。

「何が見えていれば、判断できますか」

担当者は、さっき閉じた画面をもう一度開いた。判断に使う情報を指で示す。AIの応答には、その情報が抜けていた。答えらしいものは出ている。それを使ってよいか確かめるには、結局、元の画面へ戻らなければならなかった。

彼は試作の流れを紙に写した。AIに任せる処理と、人が確かめる箇所を分けて書く。最後まで自動でつないだ線の途中に、印をつけた。

確認のために手を止めるなら、その場で何を見られるようにするか。判断を保留したら、どこへ戻れるようにするか。聞くべきことが増えた。試作が動いたぶんだけ、足りないところも具体的になった。

画面の向こうで処理が終わる。担当者はまだ何も押していない。

彼は待った。

試作の画面を一緒に確かめ、ノートを直す二人

直したものを、また置く

席へ戻り、試作を直す。

聞いた言葉をそのまま画面に足すだけでは、収まらなかった。先に見せる情報を変えると、その後の流れも変わる。既存の機能をもう一度確かめた。紙の図と画面を交互に見ながら、一本ずつつなぎ直した。

競技をしていた頃、動きを直した直後には、以前よりぎこちなくなることがあった。身体に残った手順が、新しい動きを邪魔する。そこで元へ戻せば、同じところへ戻る。確かめる箇所を決めて、もう一度やる。彼は椅子に座り直した。

次に見せるとき、最初から説明しすぎないようにした。担当者に操作してもらう。目がどこへ動くかを見る。口を挟みたくなったところを、ノートに書く。

担当者の指が画面を指した。

「これは、先に分かるといいですね」

彼はうなずきかけて、止めた。

「先というのは、どの時点ですか」

担当者が一つ前の画面へ戻る。彼もノートを一枚戻した。聞いていたつもりのことが、まだ残っていた。

机には、初めに描いた図がある。消した線が薄く残り、その上を別の線が通っている。既存の仕組みも、利用者の仕事も、図のようには簡単に動かせない。動かせるところを見つけて、つくり、またここへ持ってくる。

彼は次に直す箇所へ、小さな丸をつけた。

紙を閉じる前に、担当者がもう一度、画面を指した。

THIS STORY BEGINS WITH

使い続けた仕組みに、新しい知性を。

既存の資産を活かし、業務を理解しながらAIアシスタントを形にする。
CASE 03を起点に、対話と実装を往復する仕事を描いた一篇。

FROM READING TO YOUR CHALLENGE

あなたの仕事では、どこで手が止まりますか。

あなたの課題で試す