PROTHENTIATHE JOURNAL ↗
In the Making
研究から、これからを考える。
RESEARCH & POSSIBILITIES01 / AGENT SYSTEMS

賢いAIを集めれば、
賢い組織になるのか?

AIを増やせば、仕事はうまく進むのか。
エージェントの協働を調べた研究から、能力と組織のあいだを考える。

小さな円卓を囲む三つの抽象的な姿。その頭上で会話の糸が大きく絡まっている

とても優秀な人を五人、会議室に集める。これで、一人のときよりよい答えが出るはずだ。

そう言われると、少し考え込む人もいるだろう。五人が何を知っているか。何を決めるのか。誰が話をまとめるのか。そもそも、この件に会議は必要だったのか。能力の高い人を集めることと、その能力が役に立つ場をつくることのあいだには、案外、広い土地がある。

AIについては、その土地を足早に通り過ぎたくなる。一体で調べられるなら、数体で手分けすればいい。別のAIに点検させれば、間違いも減るだろう。人間と違って予定を合わせる必要もない。会議室の予約もいらない。

では、調整の費用までなくなるのだろうか。

Google ResearchやMITなどの研究者による「Towards a Science of Scaling Agent Systems」は、この問いを、実験できる形に置き直している。複数のAIを働かせると、どんな条件で単独よりよくなるのか。そして、どんな条件では悪くなるのか。

この研究を面白くしているのは、複数で働くことの成功談だけを集めていないところだ。チームを組ませた結果、仕事ができなくなる場合も、同じ実験の中に置いている。

研究者たちは、単独で動くAIと、連絡の取り方が異なる四種類のチームを比較した。それぞれが別々に作業して最後に結果を集めるもの。中央の担当が仕事を割り振るもの。互いに直接やり取りするもの。その両方を組み合わせるもの。三系列の言語モデルを使い、六つの課題群、計二百六十の構成を評価した。ツールや計算予算などをそろえ、組み方の違いを比較する設計である。

ここで計算予算をそろえるのは重要だ。五人が丸一日かけた仕事と、一人が一時間で仕上げた仕事を比べても、チームの力を測ったことにはならない。AIの場合も、相談や確認に使う言葉は無料ではない。同じ予算の中なら、それに使った分だけ、ほかに使えなくなる。

分けられる仕事、つながっている仕事。

結果は、仕事によって逆転した。

金融調査の課題では、中央で調整する構成の平均成績が、単独の三四・九%から六三・一%に上がった。一方、順序や前提条件を守って進めるPlanCraftという計画課題では、試した四種類のチームが、いずれも単独を下回った。

前者では分担が利き、後者では連携が重荷になる。論文はこの違いを、課題の分けやすさと、調整にかかる負担の関係から読もうとする。

たとえば、ある会社について調べる仕事を想像してみる。売上を調べる作業と、費用を調べる作業は、ある程度、並行して進められそうだ。最後に突き合わせれば、それぞれの調査が一つの判断に集まる。

反対に、前の手順で何が起きたかによって、次にできることが変わる仕事もある。こちらでは、担当を分けるたびに、現在地も渡さなければならない。何を済ませたか。何がまだ使えるか。どの条件を満たしているか。引き継ぎは仕事の外にある付属品ではなく、仕事そのものの一部になる。

こうした例で考えると、「難しい仕事だから分担しよう」という判断には、もう一つ質問が要る。難しさは、調べる範囲の広さにあるのか。それとも、途中の状態を取り違えずに進むことにあるのか。同じ難問でも、助けの入り方は違う。

もちろん、この実験から理想の組織図を描くことはできない。研究の対象はAIであり、人間とAIが一緒に働く職場を調べたものではない。計算予算を増やしたり、モデルや課題に合わせて設定を練り直したりすれば、結果が変わる余地もある。二つの課題群は各二十問という小規模な評価で、個別の勝ち負けには幅がある。著者たちも、その限界を記している。

一つの小さな積み木を受け渡そうとする三つの手。その間を連絡の糸が何度も遠回りする

能力の一覧には、載っていないこと。

それでも、読む側に残る問いは小さくない。

AIを選ぶとき、私たちはまず、そのAIに何ができるかを知りたくなる。長い資料を読めるか。コードを書けるか。計算を間違えないか。どれも必要な問いだ。ところが、複数を一緒に働かせる段になると、能力の一覧には載っていない問題が現れる。

どこまで一人で考え、どこから相談するのか。途中経過は何を残せばよいのか。違う答えが出たら、誰が、何を材料に判断するのか。

こう並べると、最新技術の話をしていたはずなのに、議題が妙に見慣れたものになる。ただし、その見覚えを、人間の組織とAIのチームは同じだという結論に急がせる必要はない。似た問いが立つこと自体を、しばらく眺めていてもよい。

面白いのは、「もっと賢いAIが来れば解決する」と待っているあいだにも、考えられることがある点だ。いま使える能力を、どんな単位で働かせるか。どこで結果を合わせるか。何については、相談しない方がよいか。

優秀な人が五人集まった会議室を、もう一度思い浮かべる。問いは、誰がいちばん賢いか、だけではなくなっている。

この五人は、何を一緒に考えるために、ここにいるのだろう。

PAPER & RESEARCHERS

今回の研究

READ THE PAPER刊行版を読む
研究の問い
複数のAIは、どんな仕事と協働の構造で単独AIを上回り、どんな条件で下回るのか。
論文
Capable language models can outgrow the benefits of collaborationNature Machine Intelligence 8, 1157–1172
2026年7月24日刊行
研究者
Yubin Kim、Ken Gu、Chanwoo Parkほか。Google Research、MIT、Google DeepMindの共同研究。筆頭著者Yubin Kimの論文上の所属はGoogle ResearchとMIT。

Yubin Kimは、人間やロボットと協働する、信頼性の高いAIエージェントを研究している。人と長く付き合い、学び続けるAIにも関心を寄せる。今回扱ったのは、そうしたエージェントを複数集めたときの協働の条件だ。能力の高いAIを迎える側には、仕事をどう分け、どこで判断を合わせるかという問いが残る。

本文の参照版
Towards a Science of Scaling Agent Systems初版:2025年12月9日
arXiv v3:2026年4月8日改訂

本文はarXiv v3を参照し、刊行版とも照合しています。

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