PROTHENTIA
PEOPLE × AI / JOURNAL
In the Field
変化が起きる、その現場から。
現場からINTERVIEW / 2026.10.19

できる人から、
楽になるわけではない。

AIが広げる能力差。その負担は、現場のどこへ向かうのか。

KN · COOPEOPLE × AI IMPLEMENTATION
紙が人から人へ渡り、一人の手元へ集まっていく風景。

できたものが、先へ進まない

資料は、もうできている。

AIがまとめた内容を、担当者が上から読み直す。文章は整っている。抜けも、すぐには見つからない。共有する前に、もう一度、最初へ戻る。

このまま使っていいのか。

たとえば、そんなところで仕事が止まる。AIを使えば、作るところまでは速い。その先で、何をよいとするかが決まらない。読む。戻る。確かめる。完成したはずのものが、まだ手元にある。

十月十九日、COOのKNに現場の話を聞いた。AIの性能より先に出てきたのは、人のところで仕事が詰まる、という話だった。AIがよいものを作っても、それを使う側がついてこられない。人が作ったものが不十分で、そちらに時間を取られることもある。

作る仕事が終わる。使えるかを決める仕事が残る。

出力を見て、これなら経営に活かせると考える人がいる。一方には、これが合っているのか分からない、というところから動けない人がいる。同じ内容を読んでいても、目を向けている先が違う。

正しさを確かめることは必要だ。だが、間違いがなければ仕事に使える、とも限らない。何のために使うのか。使って、何を変えるのか。そこまで判断する人がいなければ、整った出力は、整った出力のまま残る。

担当者は、もう一度、資料を見る。直す箇所が分かれば、そこを直せる。分からないのは、どこまで確かめたら人に渡せるかだ。完成を決める線が引けない。その線を引ける人へ、判断ごと渡すことになる。

できているのに、進まない。

次の仕事の前に、別の仕事が来る

手元で止まったものは、判断できる人へ回る。

受け取った人にも、自分の仕事がある。先へ進めたい案件がある。それでも、内容を開く。足りないところを見つけ、どこを直せば使えるかを考える。自分なら短く済む判断に、別の人は長くとどまっている。

その差を放ってはおけない。

直すところを伝えて、いったん返す。戻ってきたものを、また見る。指摘した箇所は直っている。それで全体を使えると判断してよいかは、まだ受け取った側に残っている。手を動かすことは任せられても、最後の判断までは手を離せない。そんな受け渡しも、起こりうる。

こうした仕事の受け渡しを考えると、誰かが速くなっただけでは現場全体が速くならない理由が見えてくる。手を離した側では一区切りついても、受け取った側には、確認と判断の仕事が増えている。

KNとの話で、価値をつくる人は楽しそうに働いているのか、と尋ねた。高度な仕事に挑める。AIも使える。成果が出て、評価される。仕事は面白くなっているはずだった。

だが、明るい話だけにはならなかった。

できる人も、苦しんでいる。ついてこられない人をどうするか。その問題に時間を使っている。

自分で直せば、目の前の仕事は進む。けれど、次も自分で直すのか。任せたい人が、次は判断できるようになるのか。成果物を使える状態にする仕事と、その人が仕事を担えるようにすることは、別に残る。

先へ進める人は、自分だけ先へ進むわけにはいかない。

評価と機会が集まる人に、周囲を支える負担も集まる。AIで浮いた時間が、そのまま自分の次の挑戦に使えるわけではない。空いたところへ、別の仕事が入ってくる。

だから、できる人から順に楽になる、とはいかない。

伸びていく枝を、それぞれの場所から支える三人。

機会は、次の機会を連れてくる

次の難しい仕事は、誰に任せるか。

成果を出した人の名前が浮かぶ。その人は、またAIを使い込む。新しい仕事の中で、使い方を覚え、判断の経験を増やす。成果が出れば、さらに次の機会が来る。

機会は、一度きりで終わらない。

KNとの対話で見えてきたのは、この循環だった。評価が集まる。機会が集まる。その機会の中で能力が高まり、また成果が出る。外にいる人が足を止めている間にも、内側では仕事が回っている。

差は、いま出来上がったものだけにあるのではない。次に何を任されるかにも、すでについている。

仕事の担い方も変わっていく。価値の創造や変革を主導する。AIと協働して業務を進める。標準化された業務を担う。話の中では、この三つの役割が挙がった。

三つの役割は、人の名札ではない。だが、標準化された仕事が自動化されれば、その仕事を担っていた人の役割は動かさなければならなくなる。価値をつくる人を支える仕事もある。そこへ、どうつなぐのか。

評価の問題も出てくる。同じ処遇でよいのか。それでも、変えられないという話がある。成果の差は見える。次の仕事の任せ方も変わる。処遇は、元の場所に残る。

進む側にも、ためらいはある。プロジェクトの中で違うやり方をすると、周囲から奇異に見られる。その視線を恐れる気持ちが、AIを使うことに逆向きの力をかけるという。

仕事を早く進めるために選んだやり方が、周囲との距離をつくることもある。

できることが増えれば、自由になる。その一行では収まらない。何を任されるか。誰を支えるか。誰と、同じ仕事を進めるか。AIを使う本人の外側にも、仕事を動かす条件がある。

空いた席に、何を置くか

自動化された仕事の次に、人との接点がある仕事を担ってもらう。

行き先としては、思い浮かぶ。だが、人と接することが得意とは限らない。仕事の名前を変えても、その人がすぐに担えるようにはならない。

任せる仕事を決める。必要なことを身につけてもらう。できるようになるまで、誰かが支える。

配置を変える一行の下に、それだけの仕事がある。その誰かも、もう忙しい。

担当を決めるだけなら、名前を書けば済む。だが、名前を書いた先で仕事が止まったら、また誰かが引き取る。引き取れる人がいることと、その任せ方で続けられることは違う。

仕事の一部をAIに任せられることと、その仕事をしてきた人の価値は、同じものではない。ただ、それを言うだけでは、明日から何を頼むかが決まらない。価値のある人だと言いながら、任せられる仕事を示せない。そのままにはしておけない。

この先をどう見るか。KNとの話は、そこで答えを出せなかった。生活を支える仕組みの話にまで及んだが、新しい役割をつくれるのか、人を引き上げられるのかという問いは残った。

顧客側でも、役員の立場からこの問題に向き合う人がいるという。遠い将来の雇用を予測する話では済まなくなっている。目の前にいる人に、次は何を担ってもらうのか。それを決める仕事が、いまある。

できる人が、次の価値をつくる。その人を支える役割をつくる。まだ循環に入れていない人にも、次の仕事を見つける。

その三つを、同時に進めなければならない。

冒頭の担当者が、資料を渡す。受け取った人が、内容を開く。その人の手元にも、途中の仕事がある。

次は自分がやれば済む。そうやって進めてきた現場で、その次を、誰が引き受けるのだろう。

INTERVIEW

この対話から。

取材:2026年10月19日(JST)/話者表記:KN(COO)

既刊:その一手前で、手が止まる